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更新日:2000.5.24
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春野ねぼ介
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1 アニマルは大きなねこです。まえあしもふといし、しっぼもふとい。 まえあしをかかえて立たせると、ほら、ようちえんからかえってきたようこちやんのむねくらいになります。 アニマルはママレード種のねこです。おなかも大きい。おすねこですがやさしいねこです。おなかをへらしためすねこをつれて小山さんの庭に入っていって大きな声でニャオオ、ニャオオとなきます。おばちやんが戸をあけて顔をだすと、ニヤーオと小さくなきます。こんにちわ、のつもりですね。 ---あら、アニマル、お友達つれてきたのね。 ---にやおん。 ---ちよっと待ってね。 おばちやんはちくわを五つにちぎってくれました。アニマルは自分はひとくちたべて、あとはおなかのすいた友達にゆずります。自分がおなかがすいているときは、みんな一人でたべてしまいます。そうするとおばちやんはふたつのいれものにカリポリをいれてくれますので、二人でカリポリ、カリポリといわせてたべるのです。 2 小山さんのおばちやんのところには咲子さんというおじょうちやんがいてアニマルをかわいがってくれるのですが、ちかごろはアニマルばくさいからといって以前のように抱っこしてくれなくなりました。 ---アニマル、あんたはどうしてそんなにくさいの、ほんとにくさいわね。あんたを抱っこしたいけれど、あんたのくさいにおいがわたしにしみついちやうから、だからいやなのよ。 アニマルは小山さんのねこではありません。アニマルはお向かいの佐々木さんのうちのねこで名前はタケです。アニマルという名前はおじょうさんがつけた名です。 おじょうさんはずっと以前はアニマルを抱っこして、「ああ重たい、いったい何キロあるのでしよう、このマルちやんは、ほんとに重たいし、いいにおい」といってくれました。アニマルはうれしくなって、ああ、ぽくはおじょうさん大好き、と自分の顔をおじょうさんのくぴにくっつけてしまうのです。 でも、今ではそんなことをしたら、「ダメ!それしたら」とすぐにアニマルをほおりだすでしよう。このあいだ、それをやってしまいました。 ---もう、マルちやんったら、こまるんだから。またあたしのくびにかゆいかゆいブツブツができるじやないの。ほんとうにあんたのからだってよごれてるんだから。くさいのよ。どうしてか、しらないけれど。 咲子さんはぬれ手ぬぐいで、自分ののどや、くびのあたりをふきながら、「あんたはね、むかしは乾草みたいないいにおいがしていたのに、近ごろはどうしてくさくなったの?どこか、わるいの?びようきなの?」といってアニマルをじっとみました。アニマルは雑巾のうえでちじこまっていました。 ---咲ちやん、すぐ、そのブラウスをきがえなさいよ。という声がしておばちやんがとなりの部屋からでてきたのでアニマルはとんとこと縁側のほうににげていきました。 ---かわいいネコなのに、くさいから、いやになるわね。なぜくさくなったのかしら、マルちやんは。 ---アニマルはオスだからかしら。あのネコ庭の木戸をぬけるとき、お尻をふってぴりぴりってXXするでしょう、みた?あれなのよ。 ---知ってる知ってる。あのとき、ネコ同士がわかるニオイのもとがぴりぴりってでてくるのね。 ---それをこのあいだソファのところにかけたのを見たの、それがあとからにおいだしてねえ、くさいったらないのよ。鼻が曲がりそう。 ---きっと、ぞれがからだじゅうについているのよ。 それをきくとアニマルはかなしくなりました。表通りにでて、電柱のかげにかくれてじっと考えました。 ぼくは育ちが悪いから、きっとからだがくさいんだ。 ぼくば大に育てられ、だからからだがくさいんだ。 ねこってほんとはくさくない。 だけどぼくがくさいのは、きれいずきでないからだ。 からだをなめなめしないから。 小さいときに捨てられて、ぽくをそだててくれたのは、ああ、犬のお母さん。 ぽくは母乳をのんだから、ぼくの半分は犬なんだ。 いつもお母さんのよこにねて、なめてそだててもらったんだ。 からだはたしかにネコだけど、していることは犬なんだ。 そこまでかんがえたとき、ききなれた足音が近ずいてきました。 小山さんのおじさんでした。 ---マルチン、ぞんなところでなにしてる。こっちにおいで。 アニマルはそういわれても、今日は行く気になりませんでした。おじさんは、いつもくびのところを気持ちよくもんでくれるのですが、今日は大きな靴をはいているし、重そうなカバンをさげていたので、まるでよその人みたいでした。アニマルは電柱のかげでじっとしていました。おじさんはさっさとうちに入ってしまいました。アニマルは一人ぽっちです。 3 ---あ、ネコや、あそこにネコがいる、という声がしてランドセルをガチャガチャいわせながら子供たちがはしってきました。 ---あ、いなくなった。あ、あんなところにいる。大小屋のところ。 ---でっかいネコや、なあ。 ---あいつな、いつも家の番してはるねん。犬といっしょに。 ---ははは、犬といっしょに番するんか。そしたら、犬がワンてなくとき、ネコはニャンてなくの。ヘっへっへ。へ。 ---あいつな、ペルの小屋のなかでいつもねたはるねん。 ---よんでみたろ、ペル、ペル、ペル。 くさりをチャリンとならして、赤い犬がでてきました。しっぽをふっています。大きなあくびをしました。おとなしい犬です。子供をかんだりしません。そのうしろからアニマルもでてきました。わあハハハ、こどもたちはよろこんでいます。 ---あのネコ、アニマルいう名前や。アンチヤンとかマルチヤンてよんだばるときもあるで。アニマルって動物のことなんや、えいごで。 ---アニマル、アニマル、ちよっときてみ、ここまできてみ。 ---あのネコ、よんでもきよらへんで。 ---あのネコ、もしかして犬ちやうか。大小屋にすんでるんやし。 ---そやなあ、犬のにおいしてるんちやうか。 ---それやったら、ネズミとれへんで、わはは。 ---行こう。早うかえってゲームしょうさ。 ---うん。 二人はランドセルの音をさせて走って行ってしまいました。 4 ウワーオ、くさいねこが通ります。夜空には満月とむら雲。 もともと捨てネコやったんやし、育ちもわるいし、仕方ないんや。 くさいネコのうた おいらは、くさい、くさいネコ
くさくて、くさくてたまらない ああ、わるかった、わるかった 犬小屋がおいらのいえだった 朝からずっとくさくても ああ、うるさいよ、ほっといて ああ、ああ、ワオワオ。ワオウ、ワオ 5 犬がないたらねこがきた。陽のあたっている物置の上で二匹のねこがむきになってワオワオとないている。かたほうはアニマルの声だ。 ---うをおお、みたことのない顔やな、気にいらん、どっかいけ。 ---わああ、なんでやねん。 ---ここは、わあああ、わしのばしょや。 ---ええやないか、ちょっとくらい。 ---あかん、あかんのじや。 ---おうおうおう、よおいうなあ。 ---やかましい、うるさいぞ。 ---ええとこやんか、ここは、ぬくいし。 ---はよお、どっかいけよお、うおお。 ---おまえは、けちなやつやな。なかようしようさ、なあ ---うわああお、よるな、かんだろか。 ---かんでみてみい。犬くさいからだで、このボロネコ。 ---えらそうに、ゆうな。おまえはただのフウセンじや。 そのあと、トタン屋根の上でニャゴニャゴ、ドカドカ、ファアハアとかみあってころがる大きな音がしました。近所の犬までワンワン、ワンワンとやかましくさわぎたてるので、ついに、小山さんのおじさんは縁側の戸をガラリとあけて、「やかましいぞ、お前ら!シッシッ!日曜の朝くらいしずかにできんのか!」とどなりました。ねこはとっくにどこか遠くのほうに場所をかえて、ニャアオウ、ニャゴニャゴとまだたたかっています。 ---お父さんのほうが、よっぽどやかましいんじやない。 おばちゃんの声がまどの中からきこえました。「日曜の朝くらいって、ねこ や犬に土曜も日曜もないわよ」 ---うるさいな。うるさいぞ、おまえも。ねむたいんじや、おれは。 おばちゃんが戸をしめました。 6 庭にはいっばいに陽がさしています。ひなたで二匹のねこがねそべっています。小山さんの縁側の戸があいて、咲子さんがでてきました。 ---あら、なかよしね、ふたりでねんねしているの。 咲子さんがちかずくと、リボンをした小柄なねこはおきあがってすこしむこうにいって、こちらをみています。 ---どこのねこちゃんつれてきたの。かわいいじやないの。 咲子さんはアニマルの前足に血がついているのにきずきました。 ---お母さん、アニマルがけがしてる。 おばちやんが顔をだしました。あたまに手ぬぐいをかぶっておそうじのさいちゅうです。パジャマのままのおじちやんが庭にでてきました。 ---どこどこ。ああ、だいぷふかいな。あ、ここ、肩のところもだいぶかまれてるな。 ---かわいそう。脚おれてないやろか、お父さん。 ---こうしてまげたら、いたいか?だいじょうぶ。骨はおれてない。 アニマルはぐったりして、うすめをあけています。 ---おまえ、あさからタイトル・マッチやったな。くちをあけてみろ。 おじちゃんがアニマルのくちをあけると、アニマルはついでに大きなあくびをしました。 ---くっさあ。くさいな、お前の息は。おまえ、牙をどおした。二本ともないやんか。なに? このまえまで一本のこってたって咲子がいうてるぞ。 ---どうしよう、お父さん、なにかクスリつけようか、きずのところ。 咲子さんは立ち上がりました。 ---なんでもいい、もってきて。きずぐすり。赤チンがいい。 咲子さんが家にはいると、いれちがいに、おばちやんが窓から顔をだして、 ---おクスリはだめよ、なめるから。じっとしてたら、なおるわよ。 ---と、お母さんはいっております。そのとうり。おまえには、自然になおす力があるもんな。 咲子さんがまたでてきたので、おじちゃんはミルクとカリポリをもってくるように、たのみました。 ---おまえはエライぞ、よくやった。にげずにがんばって、ナワバリまもったんだ。キバはなくなったし、けがもしたけれど、彼女ができてよかったなあ。 咲子さんが四枚の皿に、二枚づつミルクとカリポリをいれてやりました。 ---さ、お父さん、おうちに入りましょう。あたしたちがいると、あのリボンのねこがこわがってたべにこないのよ。 ガラス窓からみていると、二匹のねこがならんでミルクをのんでいます。アニマルはサツキの植木鉢をならべる台の上にあがってねそべりました。リボンのねこもすぐよこにきてじっとしています。二匹のからだのうえにちらちらとまだらの日光があたっています。 アニマルば、ゆめをみていました。 ゆめの中に、かおの大きなフウセンねこがでてきました。 フウセンねこは、大きなくちでかみにきました。 ---アニマちやーん、がんばって。にげたらあかん、にげたらあかんで。うちがついてるでえ。 リボンちゃんのためにも、ぼくはがんばるぞ、と アニマルはおもおいました。
おわり *春野ねぼ介氏は、活発な文筆活動を行っている私(夏目)の知人です。今回「猫をテーマにした童話が何本もたまったので、貴Webページで1つ紹介して欲しい」と依頼されました。今後、出版の予定もあるそうです。
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