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〜せいうち訳者のシュールな日乗(常?)
| 2005年1月2日〜 |
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1月2日
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知っている人は知っているのだが、東横線旧桜木町〜高島町駅間の高架下には延々と落書きがされている。落書きと言っても単なるいたずら書きではない。とにかく絵がうまいのである。見た途端「へぇー、やるじゃん」と言ってしまうくらいうまい絵がいくつもいくつも描いてある。品が良いとは言えないので、芸術的価値が云々、という気はないが、見ていて結構楽しめることは確かだ。 この落書きを、高架の所有者である東急電鉄は非常に問題視していたらしい。何とかやめさせられないか、と頭を悩ませていたというのである。それを聞いて、はじめは「何を無粋なことを」と思ったものの、よく考えてみれば、自分の家の塀に落書きをされて良い気持ちのする人はいない。「うまい絵だから良い」などとうっかり許してしまうと大変なことにもなりかねない。「うまい絵」の基準が曖昧だからだ。「美人だし手口があまりに巧妙で感心してしまうから、この泥棒は許す」などということはあり得ない。違法行為には違いないのだから野放しにはできないのだろう。 一体この後、どうなるのだろうか、と気にはなっていた。落書きを見るのは楽しみだったので、綺麗に消されてもつまらないし、落書きに怒っている東急の気持ちもわかるし...ということで、別に関係者でもないのに、「いったいどうすればいいんだ」などと真剣に考え込んだりもした。きっぱりした結論が出たのかどうなのかがわからないうちに月日は流れ、落書きが消されることもなく、なぜか新たに描き足されることもなく(以前は頻繁に描き足し、描き直しがあった)、いつの間にか絵がどんどん風化するままに放置されるという状態になっていた。そして、ついに、上を走る電車路線そのものが廃止されるという日を迎えたのである。 電車が走ることもなくなるし、絵も徐々にボロボロになっていくしで、しばらく落書きの存在すら忘れていたのだが、先日、バスで現場を通りかかって驚いた。旧桜木町駅寄りの壁に新しい絵がいくつか描かれていたからだ。はじめは喜んだものの、どうも何かがおかしい。少し考えて、違和感の理由がわかった。絵の行儀が良すぎるのである。以前の絵はいくらうまいとは言っても、描いている本人が「良くないことをしている」という自覚を持っていることがよく伝わってきた。人の目を盗んで、やってはいけないことをしている、という気持ちが絵に表れていたのである。しかし、今回新たに描かれた絵は、「さあ、好きに描いてください。描いていいですよ」と言われ、管理された状態で「自由にのびのびと」描いたような感じなのである。絵を描くための塗料を提供したと思われる塗料会社の広告らしきものまである。トドメは横浜市からのメッセージだ。「この壁を有効に使うにはどうすればいいか意見をお寄せください」というようなことが書いてある。 どうせ落書きされてしまうなら、お上の管理下にある人間に、公認のかたちで絵を描かせてしまった方がましだ、というアイデアなのかもしれない。確かに名案と言ってもいいだろう。喜ぶべきなのかもしれないが、「宝物をなくしてしまった」という気持ちがどこかにあるのも否定できない。落書きをしていた人間の行為はほめられたものではないが、ああいうことが、黙認というのでもなく、公認というのでもなく、何となくなし崩しで存在できていた、という状況が楽しかった。子供の頃、空き地にダンボールで家を作って遊んだことがあるが、あの楽しさに似ている。土地は自分のものではないし、そこに自分がいることに何の合法性もないが、「さあ、ここで遊びなさい」と言われてお膳立てされている公園よりはるかに楽しかった。もちろん、声高に落書きをさせろ、などと言う気もないし、秩序を乱していいという気もないので、まったくはじめから正当性も合理性もない話であるが。別に何かを主張したいわけではないのである。空き地に家が建ってしまったら、また新たな遊び場を探すしかない。それだけのことだ。少し面倒ではある。 |
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